こんにちは、ゆうすけです。
レンズのカタログを見ていると必ず出てくるグラフ、MTF曲線。これが一体何を意味しているのか?レンズのカタログに出てくるんだから、レンズ性能のグラフだろうという事は予想が付きますが、イマイチちゃんとした見方がよくわかっていない。
という事で、これを機会にMTF曲線について調べてみました。可能な限り簡単な文章で説明しているので、MTF曲線について知りたい方は参考にしてみてください。
「細かい事は抜きにしてMTF曲線の見方のポイントだけ知りたい!」という方はまとめだけ見ればOKです。
MTFとは?
MTF曲線の事を説明する前に、まずは『MTF』について簡単に説明する必要があります。『MTF』とは『Modulation Transfer Function』の頭文字を取ったもので、白黒のチャートをレンズで撮影した時に、そのコントラストがどれだけ再現できているかの比率を示すものです。
MTF曲線の見方
では『MTF』を元にして作られた『MTF曲線』のグラフを見るとレンズの何が分かるのでしょうか。私が使っているAPS-C用レンズである、HD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRの『MTF曲線について』の項目には次のような説明がありました。
MTF曲線について
MTF(Modulation Transfer Function)とは、レンズ性能を評価する指標のひとつで、被写体の持つコントラストの再現度合いを空間周波数ごとに表したものです。
HD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WR
掲載されているMTF曲線は、縦軸にコントラスト、横軸に画像中心からの距離をとり、空間周波数として、低周波を表している10本/mmと、高周波を表している30本/mmに対応するそれぞれのMTFをグラフに示しています。グラフでは、S方向(サジタル方向、放射方向)のMTFを実線で表し、M方向(メリディオナル方向、同心円方向)のMTFを破線で表しています。
一般に、低周波のMTFが高いとヌケの良いレンズ、高周波のMTFが高いとシャープで高解像力を持つレンズといえます
最初の段落の『空間周波数』という単語が出てきたあたりで既に頭の上に『?』が付き、二段落目の『低周波を表している10本/mmと〜』という箇所で「これはわからんな…」と理解を放棄したくなるような説明です。説明自体は確かにその通りなんでしょうけど、一般人にとって初見ではまずよくわからないと思います。
そこで、上の説明文のポイントだけを抜き出してみると次のようになります。
- グラフの縦軸はコントラストを表す
- グラフの横軸はセンサーの中心からの距離を表す
- 10本/mmのグラフ(青)はコントラストの指標
- 30本/mmのグラフ(赤)は解像度の指標
- S方向とは放射方向の事
- M方向とは同心円方向の事
そして実際のMTF曲線のグラフに上記のポイントを書き込んだものが次の図になります。
1. グラフの縦軸はコントラストを表す
まずはグラフの縦軸を見てください。
冒頭で説明したとおり、MTFとはコントラストがどれだけ再現できているかの比率を表したものです。そしてこの縦軸がコントラストの数値であり、これこそがMTFの正体となります。
※縦軸の左側に『MTF(%)』と書いてあるのも確認できます。
このMTFのデータをプロットして繋げたものがMTF曲線です。
縦軸の一番下は『0%』、上に行くに従って数字が大きくなり一番上が『100%』となっています。つまりグラフが一番上にあれば、コントラストの再現性100%で、レンズを通した光が元のチャートと完全に同じ状態を再現できているという事です。
※最小値『0』〜最大値『1』で表すグラフもあります。
2. グラフの横軸はセンサーの中心からの距離を表す
次は横軸を見てみます。
単位は『mm(ミリメートル)』で、センサーの中心からの距離を表しており、一番左が『0mm』、一番右端が『13.5mm』となります。何故13.5mmかと言うと、APS-Cのセンサーサイズの一番中心から遠い対角線の長さが13.5mmだからです。
上のグラフの例だと、横軸が右に行くに従ってグラフが下がっており、中心に比べて周辺描写の解像度は落ちるという事が読み取れます。
フルサイズ用のレンズの場合、一番中心から遠い対角線の長さは約21.5mmなので、グラフの横軸のメモリも21.5mmまでになります。
3. 10本/mmのグラフ(青)はコントラストの指標
『10本/mm』は言葉のとおり、1mmの範囲の中に10本という意味なのですが、何が10本なのかというと、白と黒の組み合わせのチャートの事です。
冒頭の『MTFとは?』でも説明しましたが、この白×黒の組み合わせを持ったチャートをレンズで撮影した時に、どれだけ明るいところと暗いところを再現できているかを計測する事で、コントラストの良し悪しを知る事ができます。
4. 30本/mmのグラフ(赤)は解像度の指標
これも同じく、1mmの範囲の中に白と黒の組み合わせが30本入ったチャートを元に測定したグラフになります。
このチャートをレンズで撮影した時、どれだけ細かいディテールを再現できているかを計測する事で、解像度の良し悪しを測ります。
5. S方向とは放射方向の事
S方向は放射方向の事を差し、中心から外側に向かって伸びる方向の事です。この放射方向上のコントラストを示したものがS方向のグラフになります。
放射方向の周辺のコントラスト値が低いレンズで、格子の模様を写すとこんな感じになるでしょう。
6. M方向とは同心円方向の事
M方向(若しくはT方向とも言われます)は同心円方向の事を差し、中心から円を描く方向の事です。この同心円方向上のコントラストを示したものがM方向のグラフになります。
同心円方向の周辺のコントラスト値が低いレンズで、格子の模様を写すとこんな感じになるでしょう。
ぐるぐるボケレンズのMTF曲線(参考)
Petzval 58 Bokeh Control Art Lensというロシア製のレンズがあり、ボケが盛大にぐるぐるした個性的なレンズです。
New Petzval 58 Bokeh Control Art Lens – Canon EF Mount
このレンズのMTF曲線のグラフを見てみます。
New Petzval 58 BC art leNs 1:1.9 / 58mmTechnical Data Sheet(PDF)
T1〜T4が放射方向になるのですが、周辺に行くに従ってグラフが急降下しています。この放射方向の低コントラストがぐるぐるボケに作用していると言えそうです。
MTFグラフの種類について
もう一度最初に引用したHD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRの説明を見ると、MTF曲線のグラフが4種類ある事に気付きます。
HD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WR
幾何光学的MTFと波動光学的MTF
グラフの上2つが『幾何光学的MTF』、下2つが『波動光学的MTF』となっています。
『幾何光学的MTF』は簡易的に計算したもの。『波動光学的MTF』とは光の回折現象を考慮したもので、実際の撮影した時に近いのは『波動光学的MTF』になります。理想と現実のようなものでしょうか。
レンズメーカーによって公開されるデータが『幾何光学的MTF』か『波動光学的MTF』かはマチマチなので、異なるメーカーのレンズを比較する場合は前提条件が同じかを確認する必要があります。(逆に言えば前提条件が全く同じで無い場合は場合はあまり比較する意味はなさそうです)
1つのレンズを見る場合は、撮影時の実態に即した『波動光学的MTF』を見れば良いと思います。
WIDE(広角)とTELE(望遠)
グラフの左側が『WIDE』、右側が『TELE』となっています。
これは焦点距離によって光学特性が変化する為で、本来は全ての距離でMTFが変わってくるのですが、グラフを全て記載していたら大変だし、混乱の元になる可能性もあるので、私たちには代表的な広角側と望遠側のみのデータを公開しているのだと思います。(計算自体は全ての焦点距離で行っていると思いますが)
F値(絞り)によってもMTFは異なる
小さくて見づらいのですが、それぞれのグラフの左下に『絞り開放』と書いてあります。焦点距離と同様、F値によってもMTFは変わってくる為、その前提条件として『絞り開放』と書いてあるんですね。
これもレンズメーカーによって、開放のデータのみ記載しているところもあれば、それに加えて中間のF値(F8.0など)のデータを記載しているものもあります。同じレンズの違うF値でのMTF曲線の比較を行う事で、「開放だとちょっと周辺が甘いけど、F8.0であればシャープに写りそうだな」くらいの予想はできそうです。
MTF曲線から写りを判断する基準は?
グラフの上に行けば行くほどコントラストが高く写りも良い、というのは分かったのですが、どの程度の数値であれば私たちは満足できるのでしょうか?
PENTAXの説明にはありませんでしたが、キヤノンのWebサイトには次のように書いてありました。
MTF特性図上の10本/mmのカーブが1に近いほどコントラスト特性がよく、ヌケの良いレンズとなり、30本/mmのカーブが1に近いほど高解像力を備えたシャープなレンズとなります。シャープで抜けのよい高性能レンズであるためには、両者でバランスが取れていることが大切ですが、一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られると言われています。
MTF特性図の見方
- 一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀
- 0.6以上あれば満足できる画質
という事らしいです。
MTF曲線からボケを判断する基準は?
最後にボケについてです。
こちらもPENTAXの説明では特に言及されていなかったので、SIGMAの説明から。
10本/mmの曲線が高いほど(1に近いほど)コントラストがよくヌケのよいレンズとなり、30本/mmの曲線が高いほど(1に近いほど)高解像度でシャープなレンズといえます。
MTF曲線とは
また、S方向(サジタル方向:放射方向)とM方向(メリジオナル方向:同心円方向)の特性が揃っているほど自然な描写が得られボケ味のよいレンズとなります。
S方向とM方向のグラフが同じような形であれば、ボケ味がよくなるようです。
ボケは写真を見てみないと判断できない部分ではありますが、確かに先ほど例に出したぐるぐるボケのレンズのグラフはS方向とM方向のグラフがグニャグニャになってます。(これは味ですが)
まとめ:MTF曲線の見方を超ザックリ解説【レンズのコントラストと解像度を知る】
まとめるとこうです。
- グラフは上にあればあるほど良い(80%(0.8)以上あれば優秀)
- 右肩下がりのグラフは周辺の描写が甘い
- レンズ同士の比較は前提条件を揃えないと意味がない(同じ条件か確認しましょう)
- 30本/mmのグラフ(赤)は解像度の指標
- S方向のグラフとM方向のグラフの形が似ていればボケ味もキレイ(かも)
長々と説明してきましたが、抑えるべきポイントはこれくらいで十分だと思います。
MTF曲線のグラフはあくまでもデータをまとめたものであって、レンズの良し悪しは実際に撮影してみないとわかりませんが、MTF曲線の見方を知る事で写りの予想は可能になります(合っているかどうかは別にして)。
MTF曲線のグラフの実用性はともかくとして、レンズ選びの楽しみを増やすためのツールとしては結構使えると思います。作例とMTF曲線を見比べながら、写りを想像してみるのもなかなか良いと思います。
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